[138]真田十勇士
ゆき 「あゆみさん?」 不意に聞こえた、その一言。 思わず、私は掃除をしていた手を止めてしまいました。 「あら、どうかなされましたか?ゆきさん。」 ゆき 「まさか、御自分の誕生日を忘れてしまっているのですか?」 「いいえ、忘れてしまった訳ではありませんわ、ゆきさん。」 ゆき 「では、何故?」 「それは、誕生日だからこそ、ですわ。」 ゆき 「ですが・・・、いいえ、だからこそ・・・。」 「歳を重ねるという事は、それだけ責任も大きくなる事も意味していますわ。それに、私も二級、ゆきさんには足元にも及びませんが、妹達の手本として、時には自らを犠牲にしても、守護に対する心構えを見せてあげないといけませんわ。ですから、その役割を果たせる様、自分を律してご主人様を守護する、という心構えを持ちたいのです。」 ゆき 「足元にも、だなんて、そんな自分を下に見て・・・。しかしながら流石は、あゆみさん。心構えは幼い妹達の見本としては勿体無いほど、そう、私達上級守護天使も見習うべき良い心掛けです。」 「そんな・・・。でも、お褒め頂き光栄ですわ。」 ゆき 「では、私は食器を洗っておきます。」 「それこそ、いけませんわ。私がやりますから、ゆっくりしていて下さいな。」 ゆき 「・・・・・。では、そうさせて頂きます。」 (ゆきさんの事ですから、わざと趣味にその思考を向け、私を試そうとしていますね。では、私の固き信念、お見せしましょう。) 私は心の中でこう言いつつも、掃き掃除を再開しました。 さっさっさっ・・・。 さっさっさっ・・・。 さっ・・・。 「ふぅっ、えーっと、ここは・・・。」 自分なりに頑張ってはいるのですが、なかなか終わりません。 キュピーン! こ、この気配は、みかちゃん!? いけませんわ、またなにか言われそうですもの。 ですが、作業を続けないと。 みか 「ただいま〜っ。」 「おかえりなさい、みかちゃん。」 すたすたすた。 「えっ!なにも・・。」 みか 「ん?なに?」 「い、いえ、なんでもありませんわ。」 みか 「あ、そ。」 すたすたすた。 ふう、私とした事が取り乱してしまいましたわ。 しかし、みかちゃんが何もせず通り過ぎるとは・・・。今日は雨でも降るのでしょうか。 さっさっさっ・・・。 さっさっさっ・・・。 さっさっさっ・・・。 さっさっさっ・・・。 「ふぅ、ようやくお掃除が終わりましたわ。でも、まだ一日は始まったばかりですわ。」 えっと、それでは、食器洗いを続いてやりましょうか。 ごしごし・・・。 それにしても、この状況、何日振りでしょうか。 たまみちゃんには、感謝しないと。 彼女のお蔭でなんとか無事なのですから。 ななちゃんとるるちゃんは、何かと甘えますから、彼女達がいないと集中はできますわ。 さぁ、仕事、仕事。 ごしごし、ごしごし・・・。 でも、彼女達はムードを明るくしてくれる。 それだけで、作業の能率は上がりますから、実際の所、能率は変わらないかもしれませんね。 でも、一気にやらないと・・・。 ごしごし、ごしごし、ごしごし・・・・。 「やっと、終わりましたわ。それにしても、らんちゃんやたまみちゃんは凄いですね。では、続いて昼食の支度ですわ。確か、今日のお昼はカレーだったはず・・・。」 ぐつぐつ、ぐつぐつ・・。 少し味見。 「あらら、ちょっと味が濃く、しかも辛くなっていますね。そういう時は・・・、」 そう言って、砂糖ではなく玉葱を出して、 「やはりここは、自然の甘みを使う方が良いですわね。」 ぐつぐつ、ぐつぐつ・・・ 二回目の味見で、 「あら、これなら多分みどりちゃんでもOKですわね。」 気が付けば、もうお昼過ぎ。 でも、これでようやく、今日の仕事も大体終わりましたわ。 それにしても今年も、寒くなりましたね。 「あの時」以来、冬はあまり好きな季節ではありませんでしたが、今の私にはとても暖かい家族がいますわ。 そうですわ。 「ご主人様」という共通した大切な人を含め、私達は『ひとつ』なのですわ。 でも、自分では分かっていても、そこからちょっと抜け出したくなる・・・。 そんな時は、一体どうしたら良いのでしょうか?ご主人様。 自分では、もう何が何だか分かりません。 「はぁっ・・・。」 悟郎 「あれ、あゆみ、他の皆は?」 「(何故今日はこんなにも早くに戻られたのでしょう???)え、えっと、諸々諸々の事情で、今家にいるのは、ゆきさんと、みかちゃんと、私の三人だけですわ。」 悟郎 「それじゃあ、仕方ないか・・・。」 「何がですか?」 悟郎 「いいや、そんな大した事じゃないし。」 「それなら良いのですが・・・。でも、何なのですか?」 悟郎 「管理人のお爺さんに、ファミレスのタダ券を三枚貰ったんだ。でも、ゆきさん達は別に行きたくは無いと思ったから、さ。」 みか 「えーっ、みかは行きたいーっ!」 「私も行きたいですわ。」 みか (えっ!あゆみが行きたがるなんて・・・、今日雨でも降るのかなぁ・・・。) 悟郎 「ゆきさんは、それで良いのかい?」 ゆき 「えっ、私は、その・・・。・・・では、私がお留守番していますので、どうぞ三人で行って下さい。」 みか 「悪いわねーっ。ゆき、(今日は途中で帰ってくるから・・・)この三人で。」 その真意をゆきは納得したのか、 ゆき 「ええ、どうぞ。(随分と気の利いたプレゼントですね)。」 悟郎 「じゃあ、ゆきさん。行くから・・・。」 ばたん。 ゆき 「ふぅ。意地を張るのも疲れは溜まりますよ?あゆみさん。」 そう言って、食事の用意の途中、味見をする。 ゆき 「いい味付けですね。思いが伝わってきますから。」 そう言いつつ、おもむろにベランダに出てゆきは一言。 ゆき 「あゆみさん、良い誕生日を・・・。」 一方、その頃・・・。 悟郎 「どう、何が食べたい?」 「私は・・・、そうですわね。グラタンがいいです。」 悟郎 「みかは?」 みか 「うーん、そうねぇ・・・。やっぱりカルボナーラかな。」 悟郎 「それじゃあ、決まりだね。すいませーん!」 店員 「オーダーお願いします。」 悟郎 「塩ラーメン1つと、グラタン1つ、あと、カルボナーラ1つで。」 店員 「では、復唱します。塩ラーメンを1つ、グラタンを1つ、カルボナーラを1つ。以上でよろしいですか?」 悟郎 「はい。」 店員 「では、メニューの方、お下げ致します。」 ・ ・ ・ このファミレスでのひと時は、みかちゃんと私が普段争っているとは、思えないほど楽しくお話をする事が出来ました。 しかしながらみかちゃんも、やはり上級守護天使だと改めて感じました。 彼女にも、落ち着いた大人っぽい部分があるのを再確認しました。 もっとも、当の本人は別のことを考えているみたいですけど。 すると、その当の本人が、 みか 「あっ、今日の買い物、みかだった!じゃあ先に帰ってるからっ!」 と言い残して、大急ぎで帰ってしまいました。 しかし、いつもの様に(まったく・・・。)と考えている暇はありませんでした。 なぜなら、ご主人様と、ふ、二人きりだったからです。 悟郎 「仕方ないな、みかは。じゃあ、帰ろうか。」 「はっ、はいっ!!!」 私はこの状況を冷静に考えようとしましたが、思考より想いが先行してしまいます。 トクトクトクトク・・・。 胸が高鳴って、ああ、私どうすれば良いのでしょうか? そんな私に、ご主人様は言葉を発しませんでした。 いいえ、言葉無くとも思いは通じる、ですわ。 おそらく、みかちゃんには、一生掛かっても分からない様な事ですけど。 しかしながら、言葉が無いのは空気が重いですので、声を掛けようとしましたら・・・、 「「あの・・・。」」 なんと、ご主人様と重なってしまいました。 ですが、今日はこれ以上言葉を発するのは止めておきましょう。 誕生日なのですから、相手の方から言葉を掛けても、私に罰は当りませんわ。 悟郎 「あのさ、今日はこっちから帰らない?」 おそらく、何か考え有っての事でしょう。ですから、 「ええ、たまには遠回りで帰るのも、良いかもしれませんね。」 そう言って、私とご主人様は交差点をいつもと違う方向へ歩いて行きました。 そして、少し時間が経って・・・、 悟郎 「まずは、誕生日おめでとう。」 「ありがとうございますわ、ご主人様。」 悟郎 「それでさ・・・、」 すっ。 「えっ、これは?」 「誕生日プレゼント。やっぱりこれが良いと思って。」 そう言いながら、本みたいな物が入っているらしい包みの裏を見ると・・・、 「なるほど・・・、価値の有る物をどうもありがとうございます。」 これはご主人様ならではの考えですわ。 となりますと、お返しはやはり・・・。 ここなら、ほとんど人は通りませんから、最適と言えば最適ですわ。 悟郎 「いいや、これはあゆみが持っているべきじゃないかな?と思って。」 「では、私からもお返しを。すいませんが、目をつぶって頂けませんか?」 悟郎 「良いよ。これで良いのかい?」 ちゅっ。 悟郎 「!!?」 「いきなりですいません。ご主人様、私のお願いを一つ、聞いて頂けますか?」 悟郎 「いいよ。言ってごらん。」 「私はご主人様がずっと、ずーっと大好きですわ。そしてこれからも、それは変わりませんわ。ですが、みかちゃんみたいに、私は積極的ではありませんわ。そして、そのような事がある度に私は自分を殺してきました・・・。」 悟郎 「・・・。(あゆみ・・・。)」 「ですが、今日決めました。週末に自分を殺すのは、人前と、幼い妹達の前だけでよろしいですか?たまには、羽を伸ばしてみたいのです。」 悟郎 「・・・いいよ。」 「ありがとうございますわ、ご主人様。さて、早く帰りませんと。折角の誕生日にお説教をガミガミ言われては、溜まりませんわ。」 悟郎 「そうだね。じゃあ行こうか。」 なんだか、この時間が続いて欲しい気もしますが、それはそれ。 やはり、私達は『ひとつ』ですわ。 それに、一人だけの大切な人ではありませんもの。 皆のご主人様、私にとってのご主人様・・・。 自分と他人。 いずれにしましても、今日は今までとは違った素晴らしい日でしたわ。 あら、こうして考えながら歩いている間に目の前は玄関。 「「ただいま。」 「「「「「「「「「「「おかえりなさ〜い。」」」」」」」」」」」
後書き@ 真田「初めての投稿が、まさか誕生日記念SSになるとは・・・。」 ルリ「しかも、これは、天福洞様へ投稿した物と同じですよ?」 真田「?、厳密に言えば違ってるぞ。」 ルリ「えっ、何処ですか???」 真田「何処とか、場所の問題じゃなくてお前が、だ。」 ルリ「!。確かに、天福洞様へ送った方のは、私が後書きには出てきませんからね。」 真田「そうだろ?」 ルリ「でも、質問があります。」 真田「何だ?」 ルリ「このSSであゆみさんが貰った物って、何ですか?」 真田「それは、一応自分なりの答えはあるが、このSSを読んでくれた皆様は、皆様だけの答えがある筈だから、あえて言わない。ご想像にお任せします、って事だ。」 ルリ「では、感想を期待しつつ今回はこれで・・・。」 がしっ! ルリ「いった〜い!離して下さいよ〜。」 真田「おい、これは誕生日SSだぞ!?」 ルリ「あっ、そっか!」 真田「それじゃあ、せーの!・・・」 「「最後になりましたが、あゆみさん、御誕生日おめでとうございます〜!!!!!」」
2003年12月18日 (木) 22時44分
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